遠野で過ごした三日間 Vol.7


トリップ
 
 

自衛隊橋?
自衛隊橋? Photo by Okuda

 遠野の短い旅も最終日になった。
先ずは朝食前にK君と二人裏のプールで楽しむことにした。
ウェーダーを履かずに濡れた草を踏み川辺に立つ。
良型のイワナが数匹悠然とライズを繰り返している。
わりとイージーにライズがとれるパターンだと二人安易に考えて釣りを始めたらこれが大間違い。
二人持てるテクニックとフライを総動員してトライするが、いわゆる、「見にきただけ〜」
1時間半ほど二人で粘ったがついにギブアップした。
昨日の午後は猿ヶ石川にテラスが出来たと喜んだばかりなのに、今朝はプール下流の端が「自衛隊橋※」に見えた。
 
 ※忍野、鐘ヶ淵堰堤上流にの橋「臼久保橋」の俗称
  この堰堤のヤマメは渋いライズで有名
 

 わらべで朝食を終えたが帰路立ち寄る約束をした奥田さん宅に伺うにはまだ時間が早すぎる。
K君が
昨日すこし上流に良い雰囲気のプールを見つけたというのでそこで少し遊ぶことに決まった。
プール上流部に車を停め、ポイントに向かおうとしたら「カメラを持っていったほうが良いですよ」とK君。
K君は一旦上流に移動し釣り下ってくるのとのこと、私はプールの流れ出しに向かった。
少し下ると赤松の林の間から川が右手に見える。
プールの流れ出しには、古い梁を再利用した橋がかかっていた。
川向こうは黄金色に色つき始めた水田。水田の奥には雑木の森。中州を結ぶ沈み橋周辺は庭園のようだ。
目の前に広がる風景の美しさに思わずたじろぐ私。
そこには手付かずの自然ではなく、生活の営みと共生している自然の美しさが広がっていた。

沈み橋1
沈み橋2
プール左岸
     
沈み橋3   プールの流れ出し
沈み橋をを渡って
 
プールの流れ出し


プール上流部
プール上流部
   沈み橋を渡り対岸に向かう。
中洲が二箇所あり、三本の橋で対岸に渡ることが出来る。
今は自然に見える中洲も、石を積み上げて作ったものかもしれない。梁は置いてあるだけで、流されないように特に固定されていない。

 健康な森は保水機能があり調水機能がある。健康な森で生まれた流れは、多少の雨では大きく水位が変化することはない。多分この場所も大きな水位の変化は起こらないのだろう。

 プールの真中付近の浮石にロッドも振らずに向かう。
浮石に座り、ただじっと景色を楽しむことにした。
川音がフェードインしてくる。センダイムシクイのさえずりが右側から聞こえ始めた。
トビが時々「ピィー」となきながら優雅に旋回している。
朝の斜めの光に、トビの羽裏の白い模様が時々見えてる。
カワガラスが一羽鳴きながら上流に飛んでいく。
私は今は、自然が作り出すサラウンドシステムに包まれている。

 景色を見る私のフォーカスが徐々に甘くなる。
絞り込んだ風景写真から、油彩の絵画へ、そして水彩画へと景色が変わり始めた。
わけもなく涙が流れていた。音楽や絵に感動して涙するのと同じ理由なのかもしれない。

女郎花
「やっぱり釣りしていない。」
「多分そうじゃないかと思ったんだ。」
赤松の林からK君の声が聞こえた。
「うん」
さりげなく私をこの場所で一人にしてくれたK君に感謝しながら、やっと一言だけ答える私。

今回の遠野の旅はトリップと呼ぶほどの小旅行。その小旅行の中で私は今別のトリップを味わった。

 今日は女郎花が秋を告げていた。

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